夏への扉(後編)
副題 長門の理想とは?キョンの理想とは?
前置き
何故にこのタイトル採用したかって、冬に夏(3年前の七夕)への扉(鍵)を探した物語だからです。探したんじゃなくて見つけたんですが。
それにほら、猫のピートが冬の寒さを嫌って夏を探すように、キョンも冬の寒さに凍えながら春の到来を待ちわびるより、夏の暑さに文句をつけながら団扇を扇いでいるほうが好きじゃないですか。
…滑ったギャグの解説をしているようで心が痛くなってきた。
深夜のノリでつけてしまったがゆえに特に意味はないことをお分かりいただけたら幸いです。
勿論、SFとしても名作の「涼宮ハルヒの消失」において、時間SFの考察をしないなんてこのブログの価値は具無しの味噌汁みたいなもの…いやダシを入れ忘れた味噌汁です。
私も考察をしたい願望は山より高く谷より深いのですが、自前のSF知識が6年以上前のもののため色々忘却しております。片っ端から読み直さないと文章すら書けないのでしばらくお待ちください。
また、涼宮ハルヒシリーズにおける時間SFを「涼宮ハルヒの観測 a study in August」に沿って理解しようとすると、「夏への扉」で使用される時間SF理論とはそぐわないように思われます。既に変えられた未来を追っているという点ではハルヒシリーズも共通点ではあるのですが、「夏への扉」が複雑なタイムトラベルではない以上、それだけで語るとどうも説明不足に陥いるような気がしてなりません。
…何を読み直そう。やっぱり「学校を出よう」?
本題に入る前に
前回の記事で、「長門の理想の世界にはハルヒは邪魔だったのかな」と最後考えました。でもそれ考えるととても悲しいんですよ。
長門よ、お前雪山の館でハルヒに看病されてどう思ったんだ、と。
ハルヒは熱に倒れた長門のこと滅茶苦茶心配してるのに、かくいう自分はクリスマス前にハルヒを北高から飛ばしたんですよ。
だから最初、キョンがハルヒをウザそうに感じていたから、長門が余計な親切心を働かせて北高に飛ばしたんだと解釈してました。本当は今でもそう信じたい。
キョンの理想とは?
先に言ってしまいましょう。
結論。
消失においてキョンは理想を明らかにしていない。
は?お前何言ってんの?…そう言われても仕方なしです。
…いやほんと、こんな問いを立てたのがまずかったかと後悔しているレベルです。
長門の理想は上記の記事で考察した通りですが、ではキョンが長門の理想を否定したのは何故か。
キョンの理想とぶつかったからだろうか。と、疑問に思って設定したのですが…。
消失世界で鍵が揃い、緊急脱出用プログラムがパソコンに表示されたときには、キョンは元の世界を選んでいます。このときではありません。
それより何より確かなのは、俺がこの世界から脱出したいってことだ。
すでに馴染みとなって俺の日常に組み込まれたSOS団とそこの仲間たちと再会したいのだ。ここにいるハルヒや朝比奈さんや古泉や長門は、だから俺の馴染みではないんだ。ここには『機関』も情報統合思念体もなく大人版朝比奈さんが来ることもないだろう。それは間違っている。
出典:「涼宮ハルヒの消失」より
なんで俺はエンターキーを押したのか?というキョンの本音を明らかにしたのが、世界改変直後に長門と対峙した時のモノローグです。このときに否定している。
変えた世界がいいか、元の世界がいいか。俺に選べというシナリオだ。
「ちくしょうめ」
選ぶもくそもあるか。
確かにSOS団だけなら修復可能だとも。
(中略)
そこでだ、俺。そう、お前だよ。俺は自分に訊いている。重要な質問だから心して聞け。そして答えろ。無回答は許さん。イエスかノーかでいい。いいか、出題するぞ。
―――そんな非日常な学園生活を、お前は楽しいと思わなかったのか?
出典:「涼宮ハルヒの消失」より
キョンは自問自答した上で元の世界を「楽しかったに決まってるじゃねえか」と肯定したことで、長門が望んだ世界を否定しています。
ハルヒが起こす出来事に嫌々ながらも付き合う一般人というスタンスでは、せっかく長門様が創造した落ち着いた世界を否定する理由足りえないから。
そしてその後に、長門の行為を否定しています。
それは便利すぎる力だ。誰だって一切をやり直したいと考えるときがある。現実そのものを自分の都合の良いように変えちまいたいと思うことだってある。
だが、普通はできないもんなんだ。しないほうがいいんだ。俺に一からやり直すつもりはない。だから俺はハルヒと一緒に閉鎖空間から戻ってきたんだよ。
(中略)
「何回言われても俺の答えは同じだ。元に戻してくれ。お前も元に戻ってくれ。また一緒に部室でなんかやってようぜ。言ってくれたら俺もお前に協力する。ハルヒだってそうそう爆発しないようになってきてたじゃないか。こんな要らない力を使って、無理矢理変わらなくていい。そのままで良かったんだよ」
出典:「涼宮ハルヒの消失」より
キョンは「元の世界に戻りたいのはその世界が楽しかったから」とした上で、
ハルヒパワーを使って、今までの思い出を(一部を除き)一切合切変えて普通の少女に変わった長門を見て、無理矢理変わる必要はないと言った。
世界を改変しなくたって、長門の理想を叶えることはできるんじゃないか――と考えてないとこんなこと言えないですね。
あ、言うまでもないことかと思いますが、長門の理想の一つに「普通に恋愛をする女子高生になりたい」(そしてその恋愛対象がキョンである)というものがあっても、それはキョンに伝わっていないでしょう。だったらこいつはもうちょい躊躇したはず。
「世界が平穏で読書好きの女子高生」なら、世界を改変しなくたって実現できると、たぶんそう考えただけだこいつは。
やはりキョンは自分の理想を持って長門の理想の世界を否定したわけではありません。
元のままの現実がいいと言っただけです。キョンの理想が「元の現実」ではありません。
ちなみに理想の対義語が現実です。
いくら現実が理想に近くても、現実が理想と置換することはないんですよ。それを現実に満足していると言います(たぶん)。国語辞典的には。
では、キョンの理想ってなんでしょうね。
今のところ、「大学生になってもハルヒの隣にいたい」ぐらいなんじゃないかと思ってますが。
記事の元ネタ